心筋梗塞と心不全の症状・予防・リハビリについて解説!

心臓は全身に酸素や栄養を送り出す生きるために欠かせない臓器です。心筋梗塞により心臓の機能が落ちてしまうと心不全になり、日常生活に大きな支障が出てしまいます。一度低下した心臓を元の正常まで回復させることは難しいため、日々の生活で予防することが大切です。

この記事では心筋梗塞・心不全の方や身近にいる方などを対象に理学療法士として心筋梗塞・心不全について解説していきます。

ぜひ、皆様の健康的な生活にお役立て下さい。

心臓の最も基本的な役割は、血液を全身に送り出す【ポンプ】機能あり、大きく分けて2つの循環があります。

肺循環

心臓の右側半分(向かって左側)は、全身から送られてきた血液を受け止め、肺に循環させる役割があります。全身の細胞から二酸化炭素や老廃物を多く含んだ血液を肺に送り、二酸化炭素と酸素を交換し、全身に酸素を送り出す準備をします。※老廃物は腎臓で処理

体循環

心臓の左側(向かって右側)は肺から送られてきた酸素を多く含んだ血液を全身に送り出す役割があります。全身に酸素と栄養を送り出すことで細胞が活動するためのエネルギーとなります。

この2つの循環が止まることなく行われるので、私たちの体は生命活動に必要な酸素と栄養素を受け取ることが出来ます。


厚生労働省による日本人の死亡原因の調査では、心筋梗塞や心不全等の心疾患は死亡原因第2位であり、心不全は年々増加傾向です。心臓系の疾患は1度病気になると再発する可能性の高い病気であり、発症および再発予防として運動・薬・食事などが効果的といわれています。 

心臓は全身に酸素と栄養を送り出しますが、心臓自身にも血液は送られます。心筋梗塞は心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を送る血管内(冠動脈内:上図)のプラークの被膜が破れ、血栓化することにより血管内腔が完全に詰まることで、詰まった部位より先の心筋に血液が送られなくなり壊死してしまいます。心筋が壊死した病態を心筋梗塞と言い、心筋梗塞では約30%の人が死亡しており、命にかかわる重大な病気です。

心筋梗塞は早期発見、早期治療が救命や症状の悪化を避けるために大変重要です。そのため、心筋梗塞の疑いが出た際には直ちに119番に電話し救急車を呼んでください。

心筋梗塞の症状

1.激しい胸の痛みが30分以上続く

2.冷や汗や吐き気息苦しさを伴う場合がある

3.肩や背中、首などにも痛みが放散する場合がある

4.安静または薬の使用で発作が改善しない

5.左肩・左腕が理由なく痛い(最も多い)

※普段から「胸の苦しさ」「胸のあたりを圧迫されるような痛み」などの症状がある場合は狭心症(冠動脈の中が狭くなり、血液が流れにくくなった状態)の可能性もあるため、早めに受診するようにしましょう。

心不全とは特定の病名を指すのではなく、心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気ですとされています。つまり、心臓のポンプ機能が低下し全身の細胞が必要とする血液(酸素)を十分に送り出せなくなった状態を指します。

パルスキシオメーター

心不全により全身に血液が十分に循環しないということは酸素も十分に循環していない状態です。酸素が十分に循環しているのかを測定する機器として、パルスオキシメーターがあります。パルスキシオメーターでは脈拍と酸素飽和度が測定出来ますが、SpO2という欄に90%以上の数値が出ていると十分に酸素がまわっていると判断します。(正常値は99%以上)

心不全になると全身の細胞に十分な血液が送れなくなり、さまざまな症状が出現します。

心不全の症状
呼吸困難感

心不全では心臓から全身に血液を送る機能を維持するために心臓の負担が増加します。その結果、肺から送られてくる血液を心臓で受けきれなくなり、肺に血液が溜まり肺のうっ血が生じます。また、日常生活や運動により身体に負担がかかると、さらに肺に血液が溜まり呼吸困難感・息切れが生じます。

心不全患者では心臓から全身に血液を送る機能が低下していくと、肺に送られる血流量も減少します。肺に送らられる血液量が減少すると、従来より少ない血液量で二酸化炭素と酸素を交換しようとするため息切れを引き起こします。

肺に送られる血液量が減少することにより酸素と二酸化炭素の交換が不十分になると、血液中の二酸化炭素の濃度が高くなります。血液中の二酸化炭素の濃度が高くなると、神経系の機能で換気を促進するため息切れが生じます。

持久力が低下・強い疲労感

心臓の機能が低下することで全身に送られる血液量・酸素が減少します。全身に送られる酸素の量が減少することで、全身の細胞内にあるミトコンドリアでエネルギーを生成する量が減少するため、動作時のエネルギー生成効率が悪くなります。全身のエネルギー不足により、疲労が生じやすくなり持久力が低下することに繋がります。

浮腫む

心臓の機能が低下することで全身から送られてくる血液に心臓が耐え切れなくなります。そのため、全身から心臓に返ってくる血液量が減少するため、全身に水分が溜まるようになります。まずは足・ふくらはぎから浮腫むようになり、心不全が進行すると両手にも浮腫みが生じます。

座っている方が楽

足に浮腫みがある状態で横になって寝ると重力の影響がなくなり足から心臓に血液が返ってくるようになります。心臓の機能以上に血液が全身から返ってくるため、肺にも血液が溜まり息切れが生じます。そのため、横になっているより、座っている方が呼吸が楽になる起坐呼吸という現象が生じるようになります。

運動後の回復に時間がかかる

心臓の機能が低下することで全身に酸素と栄養を送る効率が悪くなり、運動後の回復に時間がかかるようになります。

発作性夜間呼吸困難

発作性夜間呼吸困難は就寝1~3時間後に息が苦しくなり目が覚めてしまい、座ることで呼吸困難が軽くなる症状で、起坐呼吸と同じような症状です。寝ることによる肺うっ血の悪化に加えて、副交感神経が優位になることによる心臓の機能の抑制・呼吸中枢の抑制が起きるため呼吸困難が増悪する。

一度心不全になると完全に治ることは基本的にありません。心不全のリハビリの考え方は、病気の再発予防健康を長期間維持するために自己管理でリハビリを行います。発症してから数カ月が経過し、日常生活に戻った生活期(維持期)に運動を継続すると病気の再発率が低下し、寿命が延長することが分かっています。

心筋梗塞発症直後のリハビリは専門の医療機関の医療従事者が管理をしながら行うため、ここでは退院してから行うリハビリをお伝えします。

理学療法ガイドラインでは心筋梗塞の再発予防や心不全による再入院予防のために心臓の負担をコントロールした有酸素運動を中心とした運動が推奨されています。運動の量・頻度として、1回30分程度、週に3~4回、可能ならば毎日30分行うことが推奨されています。

心不全を有する高齢者に適切な運動を行ってもらうと運動耐容能(運動に対する耐性≒持久力)と足の筋力改善に有効であるとされています。

実際に、ややきついと感じる程度の有酸素運動を継続すると、身体の酸素を取り込む力が向上し、持久力向上や疲労に強い身体を作ることが出来ます。また、筋トレも同様に力の向上や持久力向上が見込めるとされています。

運動プログラム1

【自転車エルゴメーター:有酸素運動】

時間:15(ウォームアップ・クルールダウン含む)

負荷:自覚的強度がRPE:12~13(ややきつい)

呼吸困難感がCR:2~3(会話が継続可能)

【筋トレ】

全ての運動プログラムを合計で8~12セット

負荷:10~12回反復出来る負荷を2セット

自覚する強度:ややきついと感じる

呼吸困難感:会話が継続可能

カーフレイズ(図:左上)

つま先立ちを繰り返し運動です。頭が天井に引っ張られるように、身体が真上にいくことを意識することで効果的になります。バランスがとりにくい場合は、椅子などを支えにすることでバランスがとりやすくなります。また、負荷が足りない場合は重たい物を持って行うと筋肉の負荷を強くすることが出来ます。

膝を伸ばす運動(図:上)

椅子に座った状態で膝を伸ばす運動です。出来るだけ膝は伸ばしきることを意識して行ってみて下さい。余裕がある場合は足の重りを付けたり、セラバンドを両足に巻くことで筋肉の負荷が上がり効果的になります。

レッグプレス(図:右上)

本体ならマシンを使って足を伸ばす運動ですが、自宅には専用のマシンはありません。そのため、バランスボールを壁につけて、横になった状態でボール蹴ることで模擬的にレッグプレスを行うことが出来ます。バランスボールがない家庭では、代用方法としてスクワットをすることで似たような動きで同じ筋肉を鍛えることが出来るのでスクワットを行ってみて下さい。

肘の曲げ伸ばし(図:左下・下)

ダンベルやペットボトルなどを持って

ローイング(図:右下)

ローイングとは【漕ぐ】という意味があり、漕ぐように両手を引く運動がローイングに当たります。ローイングは胸を開く運動になり、猫背の改善・呼吸の行いやすさに繋がります。図の運動では負担がやや大きいですが、背中全般の筋肉を鍛えることが出来ます。うつ伏せの状態で運動が難しい場合は、座った状態で両肘を背中で付けるようにイメージ(実際に肘は付かないです)で、胸を開く運動で身体の負担を調整することが出来ます。

【効果とまとめ】

心不全を有する70歳前後の高齢者に紹介した運動プログラムを週2回・3ヶ月継続してもらったところ、筋トレを行った部位の筋力向上、持久力向上、日常生活の健康感の改善があったとされています。

運動プログラム2

有酸素運動:ウォーキングや自転車エルゴメーター

※時間全体:ウォームアップ・負荷をかける運動時間・クールダウンを含めて1時間

 期間:3回/週を約4か月

ー最初の2週間ー

負荷をかける時間:15分

強度:運動しながら息を切らさずに会話を続ける事が出来る程度

ー運動に慣れてくると…ー

負荷をかける時間:20分

強度:ややきついと感じる強度。少し息が切れ、短い会話なら出来る程度

【効果とまとめ】

心不全を有する高齢者(平均年齢約70歳)を対象に、紹介した運動を行うと運動を行う時間・運動時に疲労しにくい身体作り・持久力の向上といった効果があったとされています。

運動プログラム3

【ウォーキング】

ウォームアップ5分+個別時間(最大30分)+クールダウン5分

頻度:3回/週  

期間:12週間

強度:運動しながら息を切らさずに会話を続ける事が出来る程度(最初)

   ややきついと感じる強度。少し息が切れ、短い会話なら出来る程度(慣れてくると)

 

【効果とまとめ】

心不全を有する高齢者(平均年齢68歳)を対象に、紹介したウォーキングを行ってもらったところ、持久力の向上日常生活の健康感の改善があったとされています。

1.心臓の機能が低下した高齢者においても、適切な運動を行うことで持久力の向上日常生活の健康感の改善が期待出来るということが分かっています。

2.運動の強度は、きついほどいいというわけではありません。運動の強度は、【余裕がある~ややきついと感じる程度】で行うことが望ましいと思われます。

3.また、心不全を有する高齢者に全身の筋トレだけを行ってもらう運動プログラムでは、持久力が少し改善したという報告があり、持久力向上を目的とするなら効果的に行うには有酸素運動は欠かせません

 狭心症や心筋梗塞の多くは心臓の血管内にプラークが蓄積することによって生じる疾患であり、予防するためにはプラークの蓄積を予防することが大切です。そのためには適度な運動・適切な食事を心がけ、必要に応じて薬を服用することが重要です。

血管内プラーク:動脈硬化の原因となる脂肪やコレステロールの蓄積物であり、血管の内膜に形成される病変

狭心症や心筋梗塞の多くは心臓の血管内にプラークが蓄積することによって生じるため、プラークを形成する象徴があれば解消しなければいけません。

そのため、心筋梗塞の危険因子と呼ばれる高血圧・脂質異常症・糖尿病・高尿酸血症などのコントロールが重要になると言われています。

高血圧

高血圧は血管の壁に持続的に強い圧力をかけている状態であり、高血圧が長期間続くと、血管に様々な悪影響を及ぼします。特に、血管の内壁に傷を付けることで炎症を引き起こす原因となります。
また、血管の内壁の損傷は脂質やコレステロールが血管の内側に沈着する原因となり、血管プラークの形成を促進します。

脂質異常症

脂質異常症は体内に異常な脂質やコレステロールが蓄積している状態であり、過剰な脂質やコレステロールはプラークの形成に繋がってしまいます。

糖尿病

糖尿病で高血糖の状態が長期間続くと血管の内壁が傷ついてしまいコレステロールが蓄積します。 コレステロールが蓄積することでプラークを形成してしまうことに繋がります。

高尿酸血症

高尿酸血症と心臓の疾患の関係として、冠動脈プラーク内に尿酸塩結晶が蓄積し、炎症を惹起することで不安定にさせることが分かっています。

血管内にプラークが蓄積していくことで最終的に心筋梗塞に繋がります。そのため、血管内にプラークが蓄積しない・しにくい食習慣を心がける必要があります。

食べ過ぎない

食べ過ぎは肥満に繋がります。肥満は体脂肪によって血管が圧迫されることで血液を押し出す心臓に負担がかかり、高血圧に繋がります。高血圧は血管の内壁の損傷は脂質やコレステロールが血管の内側に沈着する原因となってしまいます。

脂肪はとりすぎない

血管内のプラークは体内の脂肪やコレステロールの蓄積によって生じます。そのため、脂質の摂り過ぎやLDL(悪玉コレステロール)の摂り過ぎには要注意です。

食物繊維は多く

野菜や果物、全粒穀物、豆類などに含まれる食物繊維は、血管を守り、血圧やコレステロール値の改善に役立つと言われています。

塩分一日6g未満

塩分の摂り過ぎは高血圧に繋がることは有名です。塩分は一日6g未満が目安と言われています。日本食は塩・醤油・味噌など塩分を含む調味料を使うことが多いので、塩分の摂り過ぎは意識しないと難しいかもしれません。

栄養不足

人体を構成するには栄養が必要不可欠です。特にタンパク質は人体を構成する栄養素であり、血管も例外ではありません。タンパク質を中心とした栄養不足は、血管の弾力が失うことに繋がります。血管の弾力を失うと高血圧や動脈硬化に繋がり、心筋梗塞の発症リスクを高めてしまいます。

運動不足は高血圧や高脂血症・高血糖などに繋がり、生活習慣病を引き起こすことは有名です。そのため、普段の日常から身体を動かす習慣が高血圧や高脂血症・高血糖の予防、生活習慣病の発症を予防することに繋がります。

WHO(World Health Organization:世界保健機関)が適切な運動量を根拠を持って公開しています。

WHOは中等度の有酸素運動を150~300分、高強度の有酸素運動を75~150分行うことが推奨されており、筋トレは週に2日以上、全身の筋肉を使用して実施する中強度以上の筋力向上活動を行うことが推奨されています。

詳しくは以下を参照して下さい。

また、意図した運動以外の時間でも細目に歩くようにし座ったままの生活を避けることを心がけることが大切です。

心筋梗塞は血管内のプラークが蓄積することが発症します。プラークは運動不足や食べ過ぎ・脂質の摂り過ぎなどの食習慣の乱れの積み重ねにより蓄積していきます。そのため、定期的な運動や栄養バランスの取れた食習慣が発症予防に繋がります。

運動は【軽い~ややきついと感じる程度の有酸素運動を30分以上を週3回以上】、【筋トレは週2回以上】を継続することが発症予防や再発防止に繋がると思われます。

健康寿命を出来る限り伸ばすためにも、適切な食習慣・運動習慣を身に付けることを推奨します。

1.公益社団法人 日本理学療法士協会 理学療法ハンドブックシリーズ④  心筋梗塞・心不全

2.合同研究班参加学会(日本循環器学会・日本冠疾患学会・日本胸部外科学会・日本集中治療医学会・日本心血管インターベンション治療学会・日本心臓血管外科学会・日本心臓病学会・日本心臓リハビリテーション学会・日本不整脈心電学会)  急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome

.高齢心不全患者に対する運動療法は運動耐容能と下肢筋力改善に有効であるーランダム化比較試験に対するシステマティックレビューとメタアナリシスー;桑原 大輔ら 2023年

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