【論文・文献レベル】慢性期脳卒中患者の耐久性向上を図るリハビリ

慢性期脳卒中患者を担当した際に、「買い物に行きたい」・「〇〇まで行けるようになりたい」といった希望をおっしゃられる人は多いと思われます。

理学療法士ならば慢性期脳卒中患者の希望を叶えるために、歩行の安全性や耐久性を評価して能力向上を図っていくと思われます。しかし、いざリハビリプログラムを設定するとなると、具体的な筋トレや内容バランス練習、歩行練習の時間などの設定に迷うと思われます。

この記事では慢性期脳卒中患者を対象とした耐久性向上に効果のあったリハビリを論文・文献ベースでPICOにまとめてお伝えしていきます。

ぜひ、リハビリプログラムの作成の参考にしてみて下さい。

※PICO:研究の目的を明確にするために用いられる考え方であり、論文・文献を読む重要ポイントをまとめたものです。

P:Patients(患者)

I:Intervation(介入・暴露)

C:Comparison(比較対象)

O:Out come(結果)

注意

ここでお伝えする内容は論文・文献の要点をまとめたものです。一部を省略していたり、個人差があるため必ずしもリハビリの成果を保証するものではありません。

論文・文献の内容を正確に知りたい方は、実際に読むことをおススメします。

Bemadette C Ammann , Ruud H Knols , and , Pierrette Baschung et al ;Application of principles of exercise training in sub-cute and chronic stroke survivors:A systematic review, BMC Neurology.2014, 14:167

これからお伝えする慢性期脳卒中患者を対象とした耐久性向上を図った論文・文献は上記のシステマティックレビューの引用文献を検索しまとめたものです。

慢性期脳卒中(6ヶ月以上経過)の
    歩行練習による体力向上効果

P:片麻歩行が残存する60歳以上の脳卒中患者(脳卒中発症後:6ヶ月以上経過)

除外基準:重篤な心疾患の既往、認知症、血管障害既に週1回以上有酸素運動を行っている人

I:【歩行練習 ※トレッドミル

強度:最大予測心拍数の60~80%(ややきつい強度、少し息が切れる程度)

時間:10~20分➡慣れてきたら30~50分

頻度:週3回

期間:3ヶ月

※最大予測心拍数計算:カルボーネン法

計算式:(220ー年齢+安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数

C:バランス訓練など

O:VO2MAXの向上

6分間歩行の拡大

最大歩行速度の向上

Christoph Globas, Clemens Becker , and, Joachim Cerny et al:Chronic Stroke Survivors Benefit From High-Intensity Aerobic Treadmill Exercise:A Randomized Controlled Trial,Neurorehabilitation and Neural Repair. 2012, 26(1) 85-95

慢性期脳卒中患者の
  歩行トレーニング効果

P:リハビリ病院退院後の慢性期脳卒中患者20

除外基準:下肢拘縮を有する、心血管系の不安定認知症、抹消・中枢神経損傷の既往

I:【歩行練習 ※トレッドミル

強度:心拍数が220ー年齢の80~85%の範囲(かなりきつい)

運動量:平均4000歩前後

頻度:週2~5回

期間:4週間

C:介入なし

O:12分間歩行距離の拡大

最大歩行速度の向上

歩行時の酸素消費量の軽減(効率向上・疲労しにくい)

最大酸素摂取量の向上

Jennifer L. Moore , Elliot J. Roth , Clyde Killian et al:Locomotor Training Improves Daily Stepping Activity and Gait Efficiency in Individuals Post Stroke Who Have Reached a “Plateau” in Recovery, American Heart Association. 2009

慢性期脳卒中患者の
 高強度の自転車エルゴメーター効果

P:脳卒中発症後約6ヶ月経過している人

※除外基準:既に定期的に有酸素運動を行っている定期的にアルコールを一定以上摂取精神疾患・重篤な循環器疾患を有する

I:自転車エルゴメーター

強度:カルボーネン法で目標、約70%の強度

(220ー年齢ー安静時心拍数運動強度+安静時心拍数

自覚強度:きつい~かなりきつい

徐々に強度を強くする

運動量:45

頻度:週3回

期間:8週間

C:ストレッチを45分間・週3回を8週間

O:最大酸素摂取量の向上

Barbana M. Quaney , Lara A. Boyd , Joan M. McDowd et al:Aerobic Exercise Improves Cognition and Motor Function Poststroke,Neurorehabilitation and Neural Repair, 2009 , 879-885

慢性期脳卒中患者の
 自転車エルゴメーターと持久力

P:脳卒中発症後数十年以上経過している人

※対象者:18歳以上 歩行の自立に関わらず全員参加

I:自転車エルゴメーター

強度:カルボーネン法の50~60%強度 ※ややきつい

(220ー年齢ー安静時心拍数運動強度+安静時心拍数

時間:30分  

頻度:週2回  

期間:10週間

C:日常生活を過ごすだけ

O:VO2:30分間ぺダルを漕ぐ力の向上

自覚する疲労度の軽減

ペダルを漕ぐ最大パワーが向上

Olive Lennon , Aisling Carey , Niamh Gaffney:A pilot randomized controlled trial to evaluate the benefit of the cardiac rehabilitation paradigm for the non-acute ischaemic stroke population. Clinical Rehabilitation 2008; 22: 125-133

慢性期脳卒中患者の
   筋トレと持久力の効果

P:脳卒中発症後648ヶ月経過している人

※対象基準:BRSⅣ以上、麻痺側下肢の筋力低下200m以上の自立歩行が可能コミュニケーション可

I:【筋トレ】 ※マシン使用

膝を伸ばす運動:連続6~8回出来る負荷量

膝を曲げる運動:連続6~8回出来る負荷量

※負荷量強め:上記を2セット

筋トレ後にストレッチ

頻度:週2回

期間:10週間

C:日常生活を過ごす

O:TUGの向上

10m歩行速度(最大)向上

6分間歩行(持久力)向上

※TUGと6分間歩行は5か月後も持続

Ulla -Britt Flansbjer , Michanel Miller , David Downham et al:Progressive Resistance Training After Stroke:Effects On Muscle Strength, Muscle Tone, Gait Performance and Perceived Participation. Foundation of Rehabilitation Information, 2008 1650-1977

慢性期脳卒中患者の
 サーキットトレーニング効果

P:脳卒中発症後1年以上経過している人

※対象基準:リハビリをしていない人補助具使用せずに10m歩行自立

I:【サーキットトレーニング】

1.様々な方向に立ち上がり運動

2.異なる高さの椅子で立ち上がり運動

3.ブロックを使用しステップ運動

4.ブロックを使用し横方向にステップ運動

5.ブロックを使用しステップアップテスト

6.カーフレイズ

C:日常生活を過ごす

O:下肢筋力向上

歩行速度向上

6分間歩行(持久力)向上

YeaーRu Yang , Ray-yau Wang , Kuei-Han Lin et al;Task -oriented progressive resistance strength training improves muscle strength and functional performance in individuals with stroke. Clinical Rehabilitation 2006; 20:860-870

慢性期脳卒中患者の
サーキットトレーニング効果

P:脳卒中発症後3ヶ月以上経過している人

※対象基準:補助具使用せずに10m歩行自立片麻痺を伴う初回脳梗塞

I:【サーキットトレーニング

1.座位でリーチ動作

2.様々な高さの椅子から起立着座を繰り返す

3.異なる高さの台でステップ前後左右

4.カーフレイズ

5.支持基底面を狭くして床にリーチ

6.起立➝短距離歩行の繰り返し

7.歩行練習、(障害物を避ける・様々な表面上を歩く)

8.斜面の歩行・階段昇降

頻度・量:1時間を週3回 

期間:4週間

C:上肢の機能訓練

O:6分間歩行の拡大(持久力向上)

歩行速度向上

ステップテストの短縮

Catherine M. Dean , Carol L. Richards , Francine Malouin et al; Task-Related Circuit Training Improves Performance of Locomotor Tasks in Chronic Stroke:A Randomized, Controlled Pilot Trial. 2000

慢性期脳卒中患者の
 筋トレと有酸素運動の効果

P:脳卒中発症後4年以上経過している人

※除外基準:完全な片足の麻痺 理解出来ない人心疾患系が不安定な人

I:【筋トレ・自転車エルゴメーターのそれぞれの有無で比較

1.筋トレ+自転車エルゴメーター()

2.筋トレ+自転車エルゴメーター

3.筋トレ()+自転車エルゴメーター

4.筋トレ()+自転車エルゴメーター()

筋トレ:股関節伸展・外転・膝関節屈伸・足関節底屈

8回×2  ※()は抵抗負荷なし

自転車エルゴメーター:最大酸素摂取量の85%

強度:きつい  ※(偽):別機器で負荷無し時間:合計30分  

頻度:週3回 

期間:10~12週間

O:

筋トレを行った人は足の筋力・筋持久力の向上

股関節伸展+膝関節伸展

股関節外転

膝関節伸展・屈曲

足関節背屈・底屈

※自転車エルゴメーターの有無では筋力向上に違いなし

Na Kyung Lee , Jung Won Kwon , Sung Min Son et al;The effects of closed and open kinetic chain exercise on lower limb muscle activity and balance in stroke survivors. NeuroRehabilitation 33(2013) 177-183

慢性期脳卒中患者の
 筋トレと有酸素運動の効果

P:脳卒中発症後3ヶ月以上経過している人

※除外基準:完全な片足の麻痺 理解出来ない人心疾患系が不安定な人

I:筋トレと自転車エルゴメーター

1.筋トレ+自転車エルゴメーター()

2.筋トレ+自転車エルゴメーター

3.筋トレ()+自転車エルゴメーター

4.筋トレ()+自転車エルゴメーター()

筋トレ:股関節外転・膝関節屈伸・足関節底背屈

8回×(1RM5080) 

股関節外転・足関節背屈は抵抗なし

自転車エルゴメーター:最大酸素摂取量5070

強度:ややきつい~非常にきつい

※(偽):別機器で負荷無し

時間:30分    

期間と量:10~12週間で30回

O:

筋トレ+自転車エルゴメーター群:6分間歩行(持久力)と階段昇降時の筋発揮向上

歩行速度に変化なし

有酸素運動または筋トレのみの群:6分間歩行(持久力)と階段昇降時の筋発揮向上傾向

Mi-Joung Lee , Sharon L. Kilbreath , Maria Fiatarone Singh et al;Comparison of Effect of Aerobic Cycle Training and Progressive Resistance Training on Walking Ability After Stroke :A Randomized Sham Exercise-Controlled Study. The American Geriatrics Society 2008 56:976-985

慢性期脳卒中患者の
 筋トレと有酸素運動の効果

P:脳卒中発症後1年以上経過している人

※除外基準:完全な片足の麻痺 理解出来ない人心疾患系が不安定な人

I:

1.速歩            

2.起立着座

3.段差ステップ(低段差)

4.異なる方向へ歩行

5.タンデム歩行      

6.障害物を避ける歩行

7.歩行中の急停止と方向転換

8.異なる床面で歩行   

9.バランス練習

10.セミタンデム保持  

11.ボールを蹴る(両側)

12.ハーフスクワット(徐々に大きくする)

13.トゥレイズ

時間:1時間   

頻度:週3回   

期間:19週間

C:上肢の機能訓練

O:1.VO2max:体力向上(心肺機能・心臓の機能・筋肉の機能)

2.6分間歩行(持久力)の向上

3.麻痺側の足の筋力向上

Marco Y. C. Pang , Janice J. Eng , Andrew S. Dawson et al;A Community-Based Fitness and Mobility Exercise Program for Older Adults with Chronic Stroke:A Randmized, Controlled Trial. The American Geriatrics Society 2005 53:1667-1674

ここからは論文・文献の要点からの個人的な考察なので、個人としての考えとして捉えて下さい。

慢性期脳卒中患者に対する耐久性向上を図るリハビリトレーニングとして、有酸素運動(歩行・自転車エルゴメーター)・筋トレ・有酸素運動+筋トレの組み合わせの効果をお伝えしました。

有酸素運動・筋トレ、それぞれに6分間歩行の距離拡大を認めることが分かりました。

歩行トレーニングは「少しきつい」「軽く息が弾む」程度の速度で約30分以上歩くことを週3~4・5回のペースで行うと効果が期待出来るかもしれません。自転車エルゴメーターは、最大酸素摂取量といった体力面の向上を認め、歩行距離拡大が期待出来ます。しかし、歩行距離の拡大という目的であれば、特異性の原理から自転車エルゴメーターよりも可能であれば歩行練習を行う方が好ましい可能性もあります。

有酸素運動は、高強度でなくても「心拍出量の増加」・「筋肉内の毛細血管増加」などの身体変化が期待出来ることが分かっています。歩行や自転車エルゴメーターといった有酸素運動によって、心機能向上・筋肉に行きわたる血液量の増加により効率よくエネルギーを生成出来るため、疲労に繋がりにくくなり、持久力向上に繋がったと考えられます。

筋トレに関しては、筋力向上に伴い歩行時に必要とする筋力に余力が生まれ、歩行距離拡大・持久力向上の獲得に至ったと考えられます。また、下肢筋力向上は歩行速度の向上に繋がり、歩行速度の向上が6分間歩行距離の拡大に繋がった可能性もあります。