【正しい勉強をするための知識!】論文・文献の検索と読み方まとめ

大人・社会人になっても勉強は必要です。今はインターネットが普及し、簡単に情報を得ることが出来る時代になりました。しかし、こうした時代だからこそ、ネットの情報を全て真に受けるのではなく、情報について知識を身に付け、吟味する力が必要になります。

このブログは医学・リハビリをベースとした内容ですが、医学の世界だけでなく全ての業界において情報を精査する力は必要であり、医療関係以外を調べる時にも参考になると思われます。

この記事は大人・社会人になった人にこそ、勉強するための情報に関する正しい知識をお伝えしていく内容です。

EBPとは、EVIDENCE-BASED PRACTICE【根拠に基づいた実践】のことを言います。EBPとは上図の一連の流れのことであり、なんとなくではなく、きちんと根拠に基づいて実践することです。

1.疑問に思ったことを整理

2.疑問点を解決するための情報収集(本・ネット・口コミなど)

3.得た情報が正しいのか批判的に吟味

4.吟味した情報が、目の前の疑問を解決するのか実践

5.結果を振り返る

この記事では根拠のある情報を収集出来るようになるための知識・過程として、1~3について解説していきます。

疑問点・問題点を整理するにはコツがいります。疑問点・問題点を整理しても、情報の検索に繋がらなければ意味がありません。

疑問点・問題点を整理する方法としてPICOというものがあります。

P(Problem・Patients):問題・患者(人)

I(Intervation):介入

C(Coparison):比較対象

O(Outcome):結果

理学療法士を例として「腰が痛い患者に対して、どのような筋トレやストレッチが効果があるのかを知りたい」場合は以下のように整理します。

P:腰が痛い患者・人

I:特定の筋トレやストレッチ

C:運動無し

O:腰痛の軽減

上のように疑問点を整理したら、検索キーワードは「腰痛持ち 筋トレ ストレッチ 腰痛軽減」などになります。

一般の場合の例として、「寝不足気味でよく眠れるように、白湯の代わりにホットミルクの方が効果があるのか知りたい」とします。

P:寝不足

I:ホットミルク

C:白湯

O:安眠

上のように問題点を整理したら、検索キーワードは「寝不足 ホットミルク (白湯) 効果」「ホットミルク 白湯 安眠 比較」などになります。

このように疑問点・問題点を整理すると知りたい情報を整理することができ、情報収集につなげることが出来ます。

インターネットで情報を検索する場合、検索式を工夫することで効率よく探したい情報を見つけることが出来ます。

検索式は下記を参考にして下さい。

検索式

【フレーズ検索】

「理学療法 脳卒中」というように知りたいキーワードで検索する方法 

【AND検索】

「理学療法 AND 脳卒中」というように理学療法と脳卒中の両方のワードが入ったモノを検索します

「理学療法 AND 脳卒中 AND 歩行」では3つのワードが入ったモノだけを検索します

ADNの他に「+」を使用したり、省略することも出来ます。

検索の結果、多くの論文がヒットし絞りきれなかった時に使います

【OR検索】

「理学療法 or 脳卒中」では理学療法または脳卒中のどちらかのワードが入っているモノを検索します

一つの意味に複数の単語が存在する場合に使用します。

例として、癌患者の理学療法を知りたい場合、「癌 or がん or ガン」というようにすることで、どの表現でもヒットするように出来ます。

また、「脳卒中の歩行」に関して英語論文を調べたいとします。

脳卒中には「CVA」と「Stroke」という表現があり、歩行では「Walk」と「Gait」という表現があります。

「CVA AND Walk」で検索してしまうと、CVAとWalkで記載している論文のみヒットし、「Stroke」「Gait」で表現している論文は外されてしまいます。

知りたい情報を検索した際に、複数の表現がある場合は外れないように「OR」を使います。

【NOT検索】

「理学療法 NOT 脳卒中」で検索すると脳卒中というワードを外した理学療法の情報がヒットします。

「脳卒中の急性期以降の歩行トレーニング」を知りたい場合に、「脳卒中 歩行 理学療法」で検索すると、急性期の情報までヒットしてしまいます。

急性期の情報を除いて知りたいの場合は「脳卒中 歩行 理学療法 NOT急性期」とすることで急性期というワードが入ったモノは外されて情報がヒットします。

NOTの他に「-」を入れることでー後のワードが入ったものは除外されます。

知りたい情報を検索する際、要らないワードは削除したいけど、AND検索では絞り過ぎてしまうという場合にNOTを使います。

【”〇〇〇〇”】

””内の単語が一致したモノを検索します。

「理学療法 歩行 90歳 –慢性期」というふうに検索した場合、「膝関節90度」や「20」や「作業療法などのワードが入ったモノが検索されてしまうこともあります。そのため、「”理学療法” 歩行 ”90歳”」というように調べることをおススメします。

特に英語では「Physical Therapy」というように理学療法の入ったワードを検索しようすると「Therapy」の部分で作業療法のワードが入ったモノもヒットしてしまいます。

そのため理学療法のみを調べたい場合は「”Physical Therapy”」というようにすると、理学療法という一つの括りで検索することが出来ます。

調べたい情報を整理したところで検索に移ります。今はSNSやネットが普及しており、簡単に情報を手に入れることが可能ですがSNSやネットの情報には落とし穴があります。

SNSやネットは誰でも書き込みが出来るため、情報が間違っている・正確性に欠けることがあります。SNSやネットの情報を鵜呑みにしてしまうと間違った情報に踊らされてしまい、目的を達成できなくなってしまいます。

そのため、情報を検索する知識を身に付けておかなければいけません。ここでは情報を検索するおススメのサイトを紹介します。

「科学技術情報発信・流通総合システム」J-STAGEは、国内の2,400を超える発行機関が、4,000誌以上のジャーナルや会議録等の刊行物を、低コストかつスピーディーに公開しています。

J-STAGEで公開されている記事のほとんど*は、PCやタブレット、スマートフォンを利用して、世界中から誰もが閲覧できます。無料のアカウントサービス「My J-STAGE」に登録すると、よく使う検索条件を保存したり、お気に入りの資料について最新号発行の通知を受け取ったりすることができます。

資料の種別

1.ジャーナル:研究基盤情報として研究成果、技術開発成果を研究者、技術者向けに広く流布させることを目的として刊行される、原著論文を主たる記事としている雑誌。

2.会議論文・要旨集:学協会、大学、企業等が開催する研究集会、シンポジウム、セミナー等の発表概要をまとめたもの。

3.研究報告・技術報告:特定の機関の研究、技術開発、調査の中間成果、活動成果を研究者、技術者向けに広く流布させることを目的として刊行される雑誌、報告書等。

4.解説誌・一般情報誌:技術動向や技術応用等を当該分野および境界領域の研究者、技術者に広く流布することを目的として、実用的な知識、技術紹介、製品紹介等の記事を掲載したもの。一般向けの科学技術理解増進のための啓蒙的記事を掲載したものや業界ニュース誌を含む。

分野

1.基礎科学系数学/物理学/化学/地球科学・天文学

2.ライフ系生物学・生命科学・基礎医学/農学・食品科学

3.医学・保健衛生系一般医学・社会医学・看護学/臨床医学/歯学/薬学工学系一般工学・総合工学/ナノ・材料科学/建築学・土木工学/機械工学/電気電子工学

4.学際科学系:情報科学/環境学/学際科学

5.人文・社会科学系:哲学・宗教/文学・言語学・芸術学/人類学・史学・地理学/法学・政治学/経済学・経営学/社会学/心理学・教育学

上のように様々な情報がJ-stageでは調べることが出来ます。日本語・英語のどちらでも調べることが可能であり、比較的、初心者でも調べやすく理解しやすい情報が載っています。

若手の医療従事者が最初に情報を知る勉強するにあたっておススメのサイトです。

しかし、ヒットした情報元が個人の学会発表による抄録などは、研究の質が担保されていないため、情報の解釈には注意が必要です。

PubMed(パブメド)は医学、看護学、歯学、獣医学、生命科学とその周辺分野に関する参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへの無料検索エンジンです。

基本的には英語で検索するサイトですが、日本語で検索出来るサイトもあります。

「脳卒中 歩行 理学療法」や「腰痛 運動療法 軽減」などの知りたい情報の全体像・傾向を検索する場合におススメです。

英語の検索・情報収集だとハードルが高くなりますが、Deeplという精度の高い翻訳サイトがありますので、Google翻訳よりおススメです。有料会員になることで活用できる範囲も大きくなりますが、無料版でも十分に活用出来ます。

PEDroは、エビデンスに基づいた理学療法の実践をサポートするために設計されています。これにより、理学療法介入の効果を評価する最高の研究に素早くアクセスすることができます。無作為化比較試験、システマティックレビュー、エビデンスに基づいた臨床実践ガイドラインなど、最も厳密な研究手法を用いた研究のみがインデックス化されます。

厳密な研究手法を用いた研究のみが出てくるため、PubMedと同様に全体的な傾向を知りたい場合におススメです。

「Google Scholar(グーグルスカラー)」とは、Googleがリリースしている無料の論文検索エンジンのことです。Googleで検索するのと同様に、探したい論文のキーワードを入力すると検索された結果が一覧で表示されます。Googleでの検索は主流となっているため、使用や閲覧方法、検索の仕方などはやりやすいです。

Google Scholarは非常に多くの研究が検索出来るため、全体的な傾向が知りたい場合はヒットする研究が非常に多くなり、知りたい情報を探すのに苦労します。

そのため、Google Scholarでは細かい内容を知りたい場合におススメです。

情報の引用元として「原著論文」は査読を有識者の査読を受けているため最も適切であるとされています。

反対に会議録・ブログなどは誰でも書き込むことが出来るため、引用元としてはあまり適切ではないとされています。このブログも例外ではありません。

勘違いしないで欲しいことは、【原著論文が全て正しい】、【全てのブログが引用元として適切ではない】というわけではなく、批判的な視点で読むことが大切であるということです。

論文・文献を1から読むと精神的にしんどくなります。しかし、論文・文献の構成を知っておくと、要点が分かるため、読むためのハードルも低くなります。

論文・文献は大きく、【はじめに】・【方法】・【結果】・【考察】に分けることが出来ます。

【はじめに】

今までの研究で分かっていること、この研究の新規性が書いてあります。

【方法】

最も、批判的に吟味する項目です。

研究方法:デザイン・対象者の選定・バイアス・統計処理などが書いてあるため、適切なのかを吟味します。

【結果】

研究の方法・目的に対応した事実が書いてあるのかを吟味します。

【考察】

研究の結果からなぜこのような結果になったのかを既存の研究で分かっていることなどから考察します。

研究デザインを知ることで何を知りたいのか研究の質が高いのかを整理することが出来ます。

研究デザインは大きく観察研究・介入研究に分けることが出来ます。

観察研究

縦断研究】経過を観察していき、観察の前後を比較する研究

【コホート研究】

コホート研究とは、選定した対象者をグループに分けて、その後の経過を観察していき結果どうなったのかを調べる研究です。

上の例では喫煙が肺がんの発症率に関係するのか調べるために、喫煙者・非喫煙者をそれぞれ経過を設定した期間、経過を追っていき、肺がんを患っているのかを比べています。

統計学的に喫煙者の方が肺がんを患っている割合が高い場合は、喫煙が肺がんの発症率に関係していると言えます。

他の例として、【日々の運動量と腰痛の関係】や【身体活動量と転倒の関係】などを調べている研究があります。

【メリット】

開始時点の時系列を揃えることが出来る

【デメリット】

連絡がつかなくなったり、亡くなったりなど途中で経過を観察することが出来なくなる人が出てくる

【症例対象研究・後ろ向きコホート研究】

症例対象研究・後ろ向きコホート研究とは結果から振り返って調べる研究です。

上の例では、肺癌になった人とそうでない人でタバコを何本吸っていたのかを調べています。

【メリット】

結果から振り返るので大人数を調べやすい

【デメリット】

時系列が分からないことがある

(例:転倒が認知症の影響を受けるのか調べたいが、転倒した時点で認知症であったか、転倒してから認知機能が落ちたのか)

【横断研究】同じタイミング(時系列が同じ)でデータを比べている

横断研究の例として以下があります。

・複数人の運動習慣と歩く速さの関連性を調べる

・○○地域在住高齢者の足の力強さと歩く速さとバランスの関連性を調べる

・○○地域と△△地域高齢者在住の認知症の割合を比べたい

【メリット】

経過を追っていく必要がないので時間がかからない、比較的簡単に出来る

【デメリット

例:○○地域と△△地域で有位な差があっても要因までは明確に出来ない

介入研究

【シングルケーススタディ】:1人を対象とした研究

シングルケーススタディとは1人を対象に特別な介入の効果を調べる研究デザインです。

対象者とする人が稀な例であり、人数を集めることが出来ない・難しい場合の研究方法です。

※ウォッシュアウト:介入1の効果が残らないように開ける期間のこと

1.基礎水準期を基準に特別な介入の効果を調べる(ABAB型)

2.基礎水準期を基準に特別な介入のどちらがより効果があるのかを調べる

【メリット】

症例の特性に合わせた介入が出来る、倫理的問題が少ない

【デメリット】

普遍性がない(たまたま対象となった症例に当てはまっただけの可能性)

キャリーオーバー(最初に行った介入の効果が持続し、次の介入に影響を与えた可能性)を否定できない

【クロスオーバー研究】:複数人を対象とした研究

従来の介入よりも新しい介入の方が効果があるのではないか」などを調べるで研究デザインです。

【メリット】

少人数でも可能

【デメリット

症例の特徴の影響をけやすい

【ランダム化比較試験】

大人数をグループ分けし、介入1と介入2の効果の違いを比較する研究デザインです。

【メリット

認識出来ていないバイアス・交絡を除外できる

エビデンス(根拠)のレベルが最も高い研究デザイン

デメリット】

人数が多いので時間と労力がかかる

倫理的問題の可能性が高い(効果が期待出来ないグループに倫理的問題)

→クロスオーバー研究と同様に介入1の後に介入2を行うことで倫理的問題を解決する方法がある

対象者によるバイアス

研究の質を担保するためには対象者の選定が大切になるとされています。

研究内容と対象者を考えておかないと、バイアスを否定出来ず研究の質が担保出来なくなります。

例:大学生を対象に健康意識を調査した研究において、対象者が文学部の大学生と医学生では結果が異なることが予想されます。これは医学生は他の大学生と比較し、身体や病気に関する勉強をするため自然と健康意識が高くなることが予想されるからです。

このように研究の対象者となる人が、行う研究に関連する専門知識を有していると結果が偏るため対象者には注意が必要です。

バイアスとは因果関係の検証で関連を歪めるような要因や現象を言います。

バイアスは生じた後には、影響を除去することができないため、研究を始める前の計画段階で入念に考える必要があり、ほぼ全ての研究や統計方法はいかにバイアスを制御するかを考えられています。

しかし、以下に考えられた研究でもバイアスの完璧な除去は難しいとされており、少なからずバイアスが生じていることを前提に読むことが大切です。

【選択バイアス】

研究の対象者となる人が、行う研究に関連する専門知識を有していると結果が偏る

【データ測定・誤差によるバイアス】

データ・記録を取る人が異なる場合:技術や観察力による力量の差

測定機器が異なる場合:測定機器による誤差・傾向

【結果の観察・記録によるバイアス】

データ・記録を取るの注意・関心による偏り:「特別な治療を受けた対象者は、きっとより改善しているはずだ」という思い込みによる偏り

対象者の注意・関心による偏り:異常を感じた人は、関係ないことでも何か思い当たる節はないかと思い出そうとする。また、異常を感じなかった人は、何も報告しない可能性がある。

交絡

交絡とは、【AがYに与える影響を調べる研究】を行いたいが、【AとZに因果関係】・【ZがYに影響を与える】関係を言います。

例:ライターを持っている人は肺がんを患う可能性が高いのかを調べる研究の結果、ライターを持参している人は肺がんを患う可能性が高いことが分かったとします。

しかし、ライターと肺がんに関連があるとは考えにくいです。

この研究の背景には、ライターを持っている人は喫煙者である可能性が高く、結果の真意は喫煙者は肺がんを患う可能性が高いということです。

A:ライター

Y:肺がん

Z:タバコ

このような交絡は複雑なものであり専門的な知識で交絡の可能性があるものをリストアップしておき、調整する必要があります。

しかし、どんなに専門的な知識を有していても全ての交絡を認識・調整することは出来ないため、交絡は必ず生じるということを知っておかなければいけません。

パスウェイ

脳卒中は発症した人は、ほとんどの場合発症前よりも歩く速さが遅くなります。

脳卒中=歩く速さが遅くなるのではなく、脳卒中を発症し運動麻痺が生じるため歩く速さが遅くなります。

このようにAとYの因果関係の間に入るような要因をパスウェイと言います。

A:脳卒中

Y:歩く速さ

Z:運動麻痺

この記事では問題点・疑問点の整理、検索式・検索サイト、情報の批判的吟味に関して解説しました。

様々な物事を判断・実行していくためには、なんとなくではなく根拠に基づいた実践(EBP)が必要です。

そのためには根拠のある情報収集が必要であり、そのための準備としてまずは【問題点・疑問点の整理】について解説しました。

【問題点・疑問点の整理】はPICOで整理することで検索するキーワードを整理しやすくなります。

キーワードを整理し、検索式を使いこなし、目的に応じたサイトを活用することで効率よく調べたい情報を収集することが出来ます。

ヒットした論文・文献の批判的吟味は専門的な知識・長年の経験をもってしても完璧に行うことは出来ません。しかし、情報を鵜呑みにするのではなく、自身で考え、批判的に吟味する姿勢が大切でであるということです。