心臓は全身に酸素や栄養を送り出す生きるために欠かせない臓器です。心筋梗塞により心臓の機能が落ちてしまうと心不全になり、日常生活に大きな支障が出てしまいます。一度低下した心臓を元の正常まで回復させることは難しいため、日々の生活で予防することが大切です。
この記事では心筋梗塞・心不全の方や身近にいる方などを対象に理学療法士として心筋梗塞・心不全について解説していきます。
ぜひ、皆様の健康的な生活にお役立て下さい。
心臓の役割

心臓の最も基本的な役割は、血液を全身に送り出す【ポンプ】機能あり、大きく分けて2つの循環があります。
この2つの循環が止まることなく行われるので、私たちの体は生命活動に必要な酸素と栄養素を受け取ることが出来ます。
心筋梗塞とは

厚生労働省による日本人の死亡原因の調査では、心筋梗塞や心不全等の心疾患は死亡原因第2位であり、心不全は年々増加傾向です。心臓系の疾患は1度病気になると再発する可能性の高い病気であり、発症および再発予防として運動・薬・食事などが効果的といわれています。
心臓は全身に酸素と栄養を送り出しますが、心臓自身にも血液は送られます。心筋梗塞は心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を送る血管内(冠動脈内:上図)のプラークの被膜が破れ、血栓化することにより血管内腔が完全に詰まることで、詰まった部位より先の心筋に血液が送られなくなり壊死してしまいます。心筋が壊死した病態を心筋梗塞と言い、心筋梗塞では約30%の人が死亡しており、命にかかわる重大な病気です。
心筋梗塞の症状
心筋梗塞は早期発見、早期治療が救命や症状の悪化を避けるために大変重要です。そのため、心筋梗塞の疑いが出た際には直ちに119番に電話し救急車を呼んでください。
※普段から「胸の苦しさ」や「胸のあたりを圧迫されるような痛み」などの症状がある場合は狭心症(冠動脈の中が狭くなり、血液が流れにくくなった状態)の可能性もあるため、早めに受診するようにしましょう。
心不全とは

心不全とは特定の病名を指すのではなく、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」とされています。つまり、心臓のポンプ機能が低下し全身の細胞が必要とする血液(酸素)を十分に送り出せなくなった状態を指します。

心不全により全身に血液が十分に循環しないということは酸素も十分に循環していない状態です。酸素が十分に循環しているのかを測定する機器として、パルスオキシメーターがあります。パルスキシオメーターでは脈拍と酸素飽和度が測定出来ますが、SpO2という欄に90%以上の数値が出ていると十分に酸素がまわっていると判断します。(正常値は99%以上)
心不全の症状
心不全になると全身の細胞に十分な血液が送れなくなり、さまざまな症状が出現します。
心筋梗塞・心不全のリハビリ

一度心不全になると完全に治ることは基本的にありません。心不全のリハビリの考え方は、病気の再発予防や健康を長期間維持するために自己管理でリハビリを行います。発症してから数カ月が経過し、日常生活に戻った生活期(維持期)に運動を継続すると病気の再発率が低下し、寿命が延長することが分かっています。
心筋梗塞発症直後のリハビリは専門の医療機関の医療従事者が管理をしながら行うため、ここでは退院してから行うリハビリをお伝えします。
理学療法ガイドラインでは心筋梗塞の再発予防や心不全による再入院予防のために心臓の負担をコントロールした有酸素運動を中心とした運動が推奨されています。運動の量・頻度として、1回30分程度、週に3~4回、可能ならば毎日30分行うことが推奨されています。
リハビリの効果と運動プログラム
心不全を有する高齢者に適切な運動を行ってもらうと運動耐容能(運動に対する耐性≒持久力)と足の筋力改善に有効であるとされています。
実際に、ややきついと感じる程度の有酸素運動を継続すると、身体の酸素を取り込む力が向上し、持久力向上や疲労に強い身体を作ることが出来ます。また、筋トレも同様に力の向上や持久力向上が見込めるとされています。
1.心臓の機能が低下した高齢者においても、適切な運動を行うことで持久力の向上や日常生活の健康感の改善が期待出来るということが分かっています。
2.運動の強度は、きついほどいいというわけではありません。運動の強度は、【余裕がある~ややきついと感じる程度】で行うことが望ましいと思われます。
3.また、心不全を有する高齢者に全身の筋トレだけを行ってもらう運動プログラムでは、持久力が少し改善したという報告があり、持久力向上を目的とするなら効果的に行うには有酸素運動は欠かせません。
心筋梗塞・心不全の予防

狭心症や心筋梗塞の多くは心臓の血管内にプラークが蓄積することによって生じる疾患であり、予防するためにはプラークの蓄積を予防することが大切です。そのためには適度な運動・適切な食事を心がけ、必要に応じて薬を服用することが重要です。
血管内プラーク:動脈硬化の原因となる脂肪やコレステロールの蓄積物であり、血管の内膜に形成される病変
心筋梗塞・心不全の危険因子

狭心症や心筋梗塞の多くは心臓の血管内にプラークが蓄積することによって生じるため、プラークを形成する象徴があれば解消しなければいけません。
そのため、心筋梗塞の危険因子と呼ばれる高血圧・脂質異常症・糖尿病・高尿酸血症などのコントロールが重要になると言われています。
心筋梗塞・心不全を予防する食事
血管内にプラークが蓄積していくことで最終的に心筋梗塞に繋がります。そのため、血管内にプラークが蓄積しない・しにくい食習慣を心がける必要があります。
心筋梗塞・心不全を予防する運動
運動不足は高血圧や高脂血症・高血糖などに繋がり、生活習慣病を引き起こすことは有名です。そのため、普段の日常から身体を動かす習慣が高血圧や高脂血症・高血糖の予防、生活習慣病の発症を予防することに繋がります。
WHO(World Health Organization:世界保健機関)が適切な運動量を根拠を持って公開しています。
WHOは中等度の有酸素運動を150~300分、高強度の有酸素運動を75~150分行うことが推奨されており、筋トレは週に2日以上、全身の筋肉を使用して実施する中強度以上の筋力向上活動を行うことが推奨されています。
詳しくは以下を参照して下さい。
また、意図した運動以外の時間でも細目に歩くようにし座ったままの生活を避けることを心がけることが大切です。
まとめ
心筋梗塞は血管内のプラークが蓄積することが発症します。プラークは運動不足や食べ過ぎ・脂質の摂り過ぎなどの食習慣の乱れの積み重ねにより蓄積していきます。そのため、定期的な運動や栄養バランスの取れた食習慣が発症予防に繋がります。
運動は【軽い~ややきついと感じる程度の有酸素運動を30分以上を週3回以上】、【筋トレは週2回以上】を継続することが発症予防や再発防止に繋がると思われます。
健康寿命を出来る限り伸ばすためにも、適切な食習慣・運動習慣を身に付けることを推奨します。
引用・参考文献
1.公益社団法人 日本理学療法士協会 理学療法ハンドブックシリーズ④ 心筋梗塞・心不全
2.合同研究班参加学会(日本循環器学会・日本冠疾患学会・日本胸部外科学会・日本集中治療医学会・日本心血管インターベンション治療学会・日本心臓血管外科学会・日本心臓病学会・日本心臓リハビリテーション学会・日本不整脈心電学会) 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome
3.高齢心不全患者に対する運動療法は運動耐容能と下肢筋力改善に有効であるーランダム化比較試験に対するシステマティックレビューとメタアナリシスー;桑原 大輔ら 2023年
4.Maria Boriand et al:A Group Based-Exercise Programme did not Improve Physical Activity In Patients With Chronic Heart Failure And Comorbidity :A Randomized Controlled Trial;J Rhehabil Med 2014;46:461-467
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