自宅でも簡単に出来る運動の1つとして「ストレッチ」があります。ストレッチを行うと身体に様々な効果が出てきます。
柔軟性の向上、血行促進、疲労回復、姿勢の改善、リラックス効果など様々ですが、ストレッチといってもゆっくり伸ばしたり、反動を付けたり、短い時間、長い時間、回数など考えることはいっぱいです。
目的に合ったストレッチを行わないと中々期待するような成果は出てきません。
ここでは、理学療法士としてストレッチの仕組みと効果、方法について解説していきます。
ストレッチの仕組み
理学療法士が患者に行うストレッチには筋肉を対象としたり、関節を対象としたり様々です。自身で行うストレッチでは関節を対象とすることが難しいため、主に筋肉を対象としたストレッチになります。
ストレッチの対象である筋肉の構造や特徴について知っておくと効果が出るストレッチについて分かりやすくなります。
まずは筋肉の構造から解説していきます。
筋肉の構造
●筋膜

筋肉は大きく分けると、収縮するための筋線維と筋線維を覆う筋膜の2つに分けることが出来ます。筋膜には3種類あり、【筋線維一つ一つを覆う筋内膜】、【筋線維の束を覆う筋周膜】、【一つの筋肉全体を覆う筋外膜】の3つがあります。
筋内膜は元々伸張性に優れた筋膜なので、ストレッチで伸ばす対象となるのは、筋周膜と筋外膜です。
筋膜リリースなどの情報を雑誌・テレビなどで目にすることがあるかもしれませんが、筋膜とは筋線維を覆っている膜であり、この筋膜の伸張性が低下すると身体が硬いという状態になります。
筋膜を構成する組織の1つにコラーゲン繊維というものがあります。コラーゲン繊維はあまり伸張性に優れた組織ではなく、ストレッチをサボるとコラーゲン繊維が増えたりなどして身体が硬くなります。
ストレッチを継続するとコラーゲン繊維は減少していき、身体が柔らかくなります。しかし、コラーゲン繊維の半減期(半分)になるのには約300日かかると言われています。
そのため、ストレッチを継続していくことで身体は柔らかくなっていきますが、数カ月~数年単位という長期目線で身体が柔らかくなっていくということです。
ストレッチを効果的に行う工夫

筋肉は筋線維と筋膜で構成されています。筋膜は筋線維を覆っているため、筋線維と筋膜は並列な位置関係にあります。そのため、筋線維が収縮(筋収縮)が生じると筋膜も短縮します。(上図)
ストレッチは主に筋膜を伸ばすで身体の柔軟性が改善します。しかし、筋線維が持続して収縮(筋の緊張状態)していると筋膜は短縮しているため、ストレッチをしても筋膜は十分に伸ばされません。
そのため、ストレッチを効果的に行うには、筋線維が収縮していない(筋緊張が緩和されている)状態で行分ければいけません。
ストレッチをより効果的に!筋の緊張を緩和させる方法
筋の緊張状態:筋肉に持続して力が入っている状態
筋の緊張状態の原因として、【筋肉の血行不良】・【神経系の興奮】・【運動不足(筋肉量減少)】などがあります。
それぞれの解決策について解説します。
筋肉の血行不良を改善

姿勢不良は一部の筋肉を緊張状態にしまう要因になります。筋の緊張状態とは、一定の強度で筋肉に力が入った状態が持続している状態をいい、筋の緊張が続くと毛細血管を圧迫するため筋肉の血行不良となってしまいます。
筋肉の血行不良が、筋肉の緊張状態を生じさせ、筋肉の緊張状態が血行不良を生じさせるため、悪循環に陥ってしまいます。
そのため、悪循環を断つためには筋肉への血流を促す必要があります。
入浴

お風呂に入ると全身の循環が促進されるため、血行不良となっている筋肉にも十分に血流を促すことが出来ます。筋肉に血流が促進されますので、筋肉の緊張状態も改善されます。
お風呂あがりにストレッチを行うと良いというのは、筋肉に血流を促して筋肉の緊張状態を緩和(リラックス)状態を作ることで、より効果的に筋膜を伸ばすことが出来るためです。
マッサージ

マッサージも血行不良の改善になります。マッサージを受けると、筋肉が圧迫されている時は血液の循環が止められますが、圧迫から解放された時に、止まっていた血流が一気に流れることで血行不良であった部分に血流が流れることになります。川から流れる水がダムで溜められて、一気に流れるようなイメージです。
首の痛み・肩こり改善のためにマッサージを受けてみるのかいかがでしょうか?
軽い運動

散歩やラジオ体操などの軽めの運動をすることで、全身の血流が促進されます。その結果、血行不良であった筋肉にも十分な血流が促進されるため、ストレッチをする前に軽めの運動をすることもお勧めします。
ここで注意として、軽めの運動であるということです。強度の強い運動を行ってしまうと、筋肉に負担がかかり、筋肉の緊張状態を作ってしまうため、あくまでも軽めの運動にとどめておくことが大切です。
痛み

筋肉痛などの痛みが生じると、痛みによって力が入ってしまったり、神経の興奮状態により筋肉に緊張状態を生じさせてしまいます。痛みの原因が筋肉痛である場合、湿布を貼るなどして時間の経過を待ちましょう。筋肉痛ではなく、疾患や原因不明である場合、医療機関を受診して原因を探ってもらい、対策方法を聞きましょう。
神経系の興奮をリラックスへ
脳卒中・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症などの脳・脊髄に影響を及ぼす疾患があると、神経系が興奮状態となり特定の筋肉に力が入ってしまいます。そのため、脳・脊髄に影響を及ぼす疾患が原因である人は、神経系の興奮状態を緩和する必要があります。
バイブレーション(振動刺激)

神経系の興奮により緊張状態にある筋肉に、マッサージ器などのよりバイブレーション(振動刺激)を加えると、神経系の興奮が緩和する作用が働きます。また、血流を促す効果も期待できるため、マッサージ器の使用は非常に有効であると言えます。
ストレッチ

ゆっくり伸ばしたストレッチは筋肉の神経系の興奮状態を緩和させる作用があります。ストレッチの前に筋の緊張状態を緩和させる必要がありますが、神経系の興奮が原因である場合、ゆっくり伸ばしたストレッチそのものが効果的に働きます。勢いを付けたストレッチは、逆効果なのでゆっくり伸ばすことが大切です。
運動不足(筋肉量減少)

筋肉には力を入れるきっかけを作るカルシウムイオンが蓄えられています。蓄えられたカルシウムイオンが放出することで、筋肉に力が入るようになります。しかし、筋肉量が減少するとカルシウムイオンを蓄えることが出来ず、筋肉に放出された状態を作ってしまうことで、筋肉に力が入ってしまいます。
そのため、カルシウムイオンを蓄えることが出来るように、まずは筋トレ・運動などをして筋肉量を増やす必要があります。
ストレッチの種類・時間・頻度
ストレッチの種類
参考文献1
Ewan Thomas et al:The Relation Between Stretching Typology and Stretching Duration: The Effects on Range of Motion;Int J Sports Med 2018; 39(04): 243-254
ストレッチにはゆっくり伸ばすストレッチ、反動をつけたストレッチなど様々です。
柔軟性を向上したい場合のストレッチ方法として、ゆっくり伸ばした状態を維持するストレッチが最も効果があったと報告しています。
反動をつけたストレッチは最も柔軟性向上に効果が現れにくかったとされています。
なぜ反動をつけたストレッチは効果が出にくい?

筋肉はいきなり伸ばされると、筋肉の中にある組織が筋肉を収縮させようとします。この伸ばされると筋肉を収縮させようとする組織は、筋肉が伸ばされる速度に反応にするため、速く伸ばされるほど反応して筋肉を収縮させようとします。
柔軟性向上のためには筋膜を伸ばす必要がありますが、筋肉が収縮してしまうと筋膜も短縮してしまうため十分に伸ばすことが出来ません。
勢いをつけて筋肉が収縮しないように、柔軟性の向上を目的としたストレッチはゆっくり伸ばす必要があります。
時間
参考文献2
Shigeru Sato et al:The acute and prolonged effects of 20-s static stretching on muscle strength and shear elastic modulus;Published: February 6, 2020
この研究では自転車エルゴメーターで軽めの運動をした後、ストレッチは1回20秒間で行うと効果があったと報告しています。
しかし、研究によっては20秒で柔軟性向上の効果が無かったという報告もあります。
学会発表ではストレッチの持続時間と柔軟性向上を調べたものがあり、ストレッチ1回当たりの30秒間行うと効果があるとされています。
ストレッチ1回当たりの時間が30秒を下回ると柔軟性の向上に効果が出にくい・出ない可能性があるので、伸ばした状態を30秒維持することが大切です。
反対にストレッチ1回当たり30秒と1分・2分を比べた研究では、どれも柔軟性は向上しましたが、柔軟性向上の度合いに違いが無かったとされています。
ストレッチ1回当たりの時間を伸ばしても効果に違いがないということなので、1回当たり30秒を複数回繰り返すとより効果が出やすいということです。
休憩時間

ストレッチ中は筋肉が伸ばされているので、緊張状態にあるといえます。筋肉が緊張状態であると毛細血管を圧迫し、筋肉は血行不良状態となります。ストレッチから解放されると、筋肉には圧迫されていた毛細血管から血流は一気に流れていきます。この血流が流れていく効果は、ストレッチを行った時間とほぼ同じ時間続くという研究報告があります。
ストレッチ間の休憩時間はストレッチを行う時間と同じにするといいと思われます。
合計時間

ストレッチはどれくらいすればよいのでしょうか?
参考文献1より、1週間の合計ストレッチ時間が5分以下よりも10分以上であると、より柔軟性が改善したという報告があります。
ストレッチは1週間単位で、合計10分以上行うようにすることをお勧めします。ストレッチ1回30秒とすると20セットです。
頻度
ストレッチは週何回すればいいのでしょうか?
参考文献1より、1週間の内ストレッチは週6回までは頻度が多いほど効果が出ているようです。
より効果的に身体の柔軟性を向上させたいのであれば、週6回を目標に行ってみてはいかがでしょうか?